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一匹の亀がいた。
彼には一人の子供がいる。

親亀は子亀を溺愛した。
目に入れても痛くないとはこのことだ。
この子のためなら命も惜しくないと。
どんな苦難からも子供を守ってやろうと。

その「苦難」とやらはすぐに訪れた。
とてもとても暑い夏の日。
じりじりと照りつける太陽に親亀はいらだちを隠せない。

こんなに暑くては子供が熱射病になってしまう。
オゾンホールとかで紫外線もやばいにちがいない。
日焼けだって皮膚癌の要因になるそうじゃないか。

「なんて太陽なんだ!」

そして親亀は子亀に言った。
「日中は池の底でじっとしていなさい。」
子亀は外に出たがったが、親亀はそれを許さなかった。

数年後、親亀は子亀の異変に気がついた。
どうしてうちの子の甲羅はこんなにも柔らかいのだろう?
親亀はそれが日光浴不足だということに気がつかなかった。
愚かにも親亀はそれを「子亀の個性」と決め付けた。

甲羅の柔らかい子亀はよく怪我をした。
仲間と同じように甲羅に身を潜めても、
仲間と同じように身を守れない自分に不甲斐無さを感じた。

子亀は亀に問うた。
「どうして僕の甲羅はこんなに役立たずなの?」

親亀は苦し紛れに言い訳した。
「お前は周りの亀よりも、よっぽどデリケートなのだ。とても繊細で上品なカメなのだよ。」
いまさら太陽を浴びろとは親亀のプライドが許さなかった。
その代償は子亀が払うことになる。

事あるごとに親亀は子亀を危険から「守る」と称して遠ざけた。
陸に上がることも出来なければ、狩りをすることさえ出来なかった。

「お前は上品で繊細なカメだから。」
親亀のプライドは子亀のプライドをじわじわと蝕んだのである。

そしてある日、珍しく子亀は陸に上がった。
親亀の「保護」が息苦しくてしょうがない。
友人たちとひと時のおしゃべりを楽しんだ。
しかし、自信のない子亀は単に愛想笑いで話を合わせるばかりであった。

そんな子亀たちに一匹の獣が近付いてきた。
池に逃げ込む暇もなく、子亀たちは一斉に甲羅に身を潜めたのである。
腹を空かせた獣はカメを一匹口に放り込んだが、
とても硬くてどうにも歯が立たない。
空腹に勝てぬこの獣は未練がましく他の亀も口に放り込んでは
ガチガチと噛んだが、最後には諦めて吐き出したのであった。
去るかと思われた獣であったが、ひとつだけ色の違う甲羅を見つける。
薄い色をした例の子亀である。
獣は深く考えずに子亀を口に放り込んだ。

獣の牙はいとも容易く子亀の体に到達し、獣は空腹を満たした。

~もやしを育てて太陽をさえぎる愚 Fin~
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